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2018.09.27 Thu | BLOG

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日本語・日本文化体験学習の継続が、将来に役立つ

 

当ホームページ内で、「帰国子女受験」について記事執筆をしてくださっている、米日教育交流協議会・代表の丹羽筆人先生が、ご自身が携わっている「サマーキャンプinぎふ」の活動を通して感じた、日本語・日本語文化体験学習継続の必要性についてお話してくださいました。

 

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日本語・日本文化体験学習の継続が、将来に役立つ
~未来のグローバル社会で活躍できる資質を養うために

 

米日教育交流協議会・代表  丹羽 筆人

 

 

米日教育交流協議会では、2006年から12年間にわたり、日本語・日本文化体験学習プログラム「サマーキャンプ in ぎふ」を主催し、実施して参りました。このプログラムの概要は以下の通りです。

 

●目的:海外に暮らし日本語学習中の子どもが日本の自然、文化、歴史に触れ、地元の人々と交流することによって日本語・日本文化を心と体で体感し、積極的に日本語を学習し、日本の生活習慣を習得しようとする意欲を芽生えさせる。
●主な体験内容―古民家の生活体験、農作業体験、ものつくり・食つくり体験、自然の中での遊び(川遊び、ハイキングなど)体験、寺院での座禅体験、史跡の見学、伝統工芸・芸能体験、スポーツ交流 *第1期では学校体験、第2期では「いかだ川下り」体験もある。
●活動拠点―岐阜県山県(やまがた)市内の里山
●参加対象―海外に暮らす日本語学習中の小学4~6年生、中学生、高校生
●実施期間―第1期:7月上旬から中旬(9泊10日)、第2期:7月下旬(7泊8日)

 

以下に、期間中に行っている主な体験について、ご説明します。

 

◆学校体験:地元の公立中学校・高等学校で、日本の学校の授業や掃除や給食などの学校生活を体験します。同年代の日本の子どもたちとの交流によって、生きた日本語に触れることができます。(第1期のみ)
◆地域交流体験:地元で行われているイベントや諸活動に一緒に参加します。これらの活動を通じて、生きた日本語に触れることができます。第1期では「和太鼓」の練習に参加して交流し、第2期では地元の子どもや若者たちとともに「いかだ」を作り、川下りを体験します。
◆古民家生活体験:所有者の方が手入れし大切にされている築140年の古民家「とっさの家」で田舎暮らしを体験します。薪割りをしてかまどを使ってご飯を炊いたり、五右衛門風呂に入ったり、古民家に隣接する山や川で遊んだりします。源流に近いため、川の水は美しく、夏でも冷たく感じられるほどです。
◆伝統文化体験:地元の伝統工芸の柿渋染めや近くの山の木や竹を使ったものつくり、地元の食材を使った料理、手打ちそばなど食づくりを通してものをつくる喜びを味わいます。自然の素材を利用した手作りの製品や食事のあたたかさときめ細かさを肌で感じることによって、日本人が古来より代々伝えてきた伝統文化のすばらしさと奥深さを理解することができます。そして、命や物を大切にする心を育みます。
◆農業体験:里山で栽培されている作物の収穫やその準備作業に携わることによって、昔から受け継がれている日本人の生活を感じます。また、作業を教えてくれる地元に暮らす人々と触れ合うことによって日本人の温かさも感じることができます。(第2期のみ)
◆自然体験:緑豊かな山道を散策するハイキングやサイクリング、さわやかな清流で楽しむ川遊びなどを通じて、日本の自然を味わいます。新鮮な空気を満喫しながらバードウォッチングや植物・昆虫採集、美しい川での水遊び やBBQなどが楽しめます。
◆寺院体験:地元の人々の生活に密着している寺院で読経、座禅、習字などを体験します。自分自身を静かに見つめる時間は、今後の人生にとって貴重な体験になるでしょう。 また、ここでの生活を通じて、様々な礼儀や作法を学ぶことができます。
◆史跡・地場産業見学:岐阜県下に多数ある史跡・名所を訪れます。訪問の候補地は、山県市内の史跡の他、岐阜城とその城下町などです。また、地元の工業施設など、現代のものつくりの現場を見学し、伝統産業や地元の資源との関係なども学びます。(第1期のみ)

 

 

 

「サマーキャンプ in ぎふ」の総参加者数は、のべ237人。内訳は、男子が118人、女子が119人。小学生が88人、中学生が127人、高校生が22人。

 

また、アメリカからの参加者は約80%の195人で、カリフォルニア州が77人と最も多く約40%です。次いでニューヨーク州18人、ワシントン州が15人、ニュージャージー州とテキサス州が各10人で、その他幅広い州から参加しています。また、アメリカ以外の国や地域では、カナダ、メキシコ、イギリス、アイルランド、ベルギー、トルコ、中国、香港、台湾、タイ、シンガポール、ナミビアから参加しました。また、日本にあるインターナショナルスクールやアメリカンスクールの生徒の参加もありました。この多くはアメリカの出身で、父親の転勤のため日本に在住しています。
また、参加者の多くは母親のみが日本人という子どもですが、父親のみが日本人、両親ともに日本人という子どももいます。いずれも英語など現地の言語が第1言語で日本語が第2言語という子どもですが、最近は両親ともに日本人ではなく、日本での在住経験もなく、現地の学校で日本語を学習している子どももいます。

 

続いて、私が「サマーキャンプ in ぎふ」の実施や補習授業校講師として、日本語教育に携わる中で感じたことを述べさせていただきます。

 

 

補習授業校で日本語学習を継続する意義

 

私が講師を務めるデトロイト補習授業校の卒業生が、続々と日本で就職しています。とは言っても、帰国生の話ではありません。アメリカの大学を卒業し、日本の企業や米国企業の日本支社に就職しているのです。このように日本で就職できたのは、アメリカの大学で修得した専門分野の実力が評価されたのはもちろんですが、日本語の実力があることが大きな要因となっていると言えます。

 

海外生まれや海外生活の長い子どもにとって、日本語学習を継続することは、なかなか大変です。特に、補習授業校での学習を継続することは、至難の業と言っても過言ではありません。補習授業校では、日本の学年に準ずる学習内容を、日本から来て数年で帰国する子どもたちと共に学ぶ必要があります。したがって、学年が上がるにつれ、補習授業校の授業についていけなくなるからです。

 

補習授業校の授業についていくためには、自宅での学習も重要です。しかし、海外生まれや海外生活の長い子どもは、学年が上がるにつれ、現地校での活動に忙しくなりますし、大学進学のため、現地校での学習に力を入れる必要があります。なかなか補習授業校の宿題や予習復習の時間が取れないのも実情です。また、日本語は第二言語ですので、自宅での学習に時間がかかってしまい、後回しにしてしまうということもあります。そのため、日本語での学力が低迷してしまいがちなのです。

 

しかし、補習授業校の授業についていけないから、途中でやめてしまうというのは、実にもったいないことだと思います。日本に帰国し、日本の学校に進学する子どもにとっては、日本の学年相応の実力が必要ですが、そうでない子どもにとっては、たとえ授業についていけないとしても、補習授業校での学習を継続することにより、年々日本語力は向上していきます。前の学年で書けなかった漢字が書けるようになったり、分からなかった言葉が使えるようになったりすれば、十分なのではないでしょうか。そして、補習授業校を継続し、高等部を卒業すれば、常用漢字や日常生活に必要な語句の修得は可能だと思います。

 

 

日本語で話す機会を増やすことの必要性

 

先述した通り、「サマーキャンプ in ぎふ」には、のべ200人以上の子どもが参加しました。その中には、日本語をほとんど話さない子どももいました。そのような子どもの家庭での使用言語を聞いてみると、日本語話者の親とも英語で会話しているケースが目立ちました。中には、親が日本語で話しても、子どもは英語で答えるという親子もいました。日本語で話す機会を作らないと、日本語に苦手意識のある子どもは、日本語を使おうとしません。日本語の上達のためには、家庭の中では日本語を話すように心がけることが必要です。米国人のお父様でも日本語で会話をしている家庭や、子どもが英語で話しかけてきても無視して、日本語でしか会話しないというような家庭では、日本の同年代の子どもとほぼ同等に会話ができる子どもが目立ちます。

 

「サマーキャンプ in ぎふ」では、日本語で会話する機会を増やすために、自由時間を除き、日本語のみを使って進めてきました。スタッフや各種体験の講師の説明はすべて日本語です。日常は、英語環境の中にいるので、せめてキャンプ中のみは、日本語を聞く機会を増やしたいからです。また、日本語しか使わないスタッフや講師に対しては、日本語で話さざるを得ません。このような日本語環境で過ごすことにより、子ども同士でも、日本語で会話するような光景が見られるようになります。そして、キャンプ終了時には、親に対して日本語でキャンプの思い出を語っている姿も見られます。
日本語で話す機会を作ることは、日本語力向上のために大切です。ぜひ家庭でも、できる限り日本語を使う習慣をつけていただきたいと思います。

 

 

日本文化体験学習の必要性

 

将来、日本の社会や日本人と関わって生きるためには、日本語力の向上のみでなく、日本の文化を理解することが必要です。「敬語」を知っているとしても、どのような場で、どう使うかを理解していないといけません。そのためには、体験入学をして、日本の学校生活の中で、日本の子どもたちが先生や先輩、同級生、後輩に対して、どのような言葉を使い、どのような態度で接しているかを体験することはとても良いことです。また、滞在先の地域で行われているスポーツや音楽などの活動に参加すれば、学校の先生以外の大人に接することもできます。

 

また、日本の作法やマナーを理解することも必要です。家に上がる時に靴を脱ぐことは分かっていても、揃えることができない子どもが目立ちます。食事中のお箸の使い方、お茶碗やお椀は左手で持ち、肘をつかないで食べるということも気をつけねばなりません。また、お辞儀の仕方、和室での座り方、話を聞くときの態度などにも慣れておく必要があります。細かいことではありますが、社会人として日本の企業に勤めたり、日本人と接したりする場合には、このようなことができないだけで違和感を持たれてしまいます。

 

「サマーキャンプ in ぎふ」では、将来、日本の社会や日本人と関わることができるように、必要な言葉遣いや作法、マナーなどを、体験しながら修得できるよう活動しています。サマーキャンプに参加しなくても、一時帰国中は、言葉遣い、作法、マナーに気をつけて生活することや、米国での生活の中でも、できることは日々実践することが大切だと思います。また、補習授業校も日本語や日本文化を体験する絶好の場です。週1回ですが、丸1日を日本語で、日本人の先生や子どもたちと過ごすことは有効です。

 

これからの社会は、ますますグローバル化が進み、米国に暮らす多くの子どもたちが、日本や日本人と接して生きることになると思います。そのためにも、日本語学習と日本文化体験学習を継続し、グローバル社会で活躍するための資質を養ってほしいと思います。

Written by 米日教育交流協議会・代表  丹羽 筆人